(読売ウイークリー2007年8月12日号より)
歯周病やアレルギー性皮膚炎など、ヒトと同じ病気になるイヌが目立っている。同じ家の中で暮らし、長生きになっているのが主な要因。食べ物に気をつけて、歯磨き、散歩は欠かさないなど、イヌの健康の秘訣もヒトと同じだ。
元気がなく、だるそうに寝てばかり――東北在住の良子さん(仮名、69歳)が、愛犬のミニチュアダックスフント(メス、10歳)のそんな異変に気づいたのは、6月初めのことだった。
顔を近づけてよく見ると、心なしか、嫌なにおいがする。かかりつけの動物病院で獣医師に診てもらったところ、良子さんには驚きの診断が下った。
「歯周病ですね」(獣医師)
歯に付着した歯石が元で、歯肉が腫れて膿んでいたのだ。2本の歯は、土台となる歯槽骨が薄くなっていた。そのため愛犬は、全身麻酔をしたうえで、2本の歯を抜く治療を受けた。治療費は3万円近くかかった。
「抜歯して2週間くらいは、体に負担がかかったせいか、寝ていることが多かったですが、今はだいぶ回復しました」
良子さんは、こう話す。
来院の6割が歯周病に
イヌは、ヒトに比べると、むし歯になりにくいが、歯周病で悩まされるケースはかなりの頭数にのぼるようだ。イヌやネコの歯に関心がある獣医師らは、日本小動物歯科研究会をつくり、歯科治療の研究発表や情報交換を行っている。
埼玉県熊谷市の湯本ペットクリニックの湯本哲夫院長が今年3月、同研究会の症例検討会で行った発表によると、2003~06年の4年間に同クリニックに来院したイヌ3780頭のうち、2384頭(63・1%)が軽度以上の歯周病にかかっていた。
なぜ歯周病のイヌが増えているのか。湯本院長は、こう見る。
「予防や治療技術が進んだことで、フィラリア症などの感染症で死ぬイヌが減り、長寿化の傾向が見られます。歯周病が問題になってきたのは、そうした長寿化が主な要因だと思います」
湯本院長によると、同クリニックに来院するイヌで、最も多い年齢層は6歳前後だという。人間でいうと、40歳前後に相当する。
「40歳前後というと、ヒトではいわゆる厄年にあたり、体調が変わりやすい年ごろ。イヌもこの年ごろから、歯周病に限らず、生活習慣に起因した慢性の病気にかかりやすくなるのではないかと思っています」と湯本院長は話す。
イヌの歯周病も、歯石などに居着いた細菌が元で炎症が起こる。治療は、薬で炎症を抑え、さらに抗生剤で細菌を取り除くのが基本だが、腫れが歯根の深い所まで達するほどだと、冒頭のケース同様、全身麻酔のうえ歯石除去や抜歯を行う。
「重症の歯周病は、抗生剤などの薬物治療に加えて、全身麻酔下での歯科治療を併用したほうが、体調の改善が大きいことが分かっています。ただ、全身麻酔の歯科治療は、イヌへの負担も大きい。そのような治療を受けずにすむように、日ごろからのケアが大切です」
歯磨き効果があるイヌ用のガムは、前の切歯の歯垢は落ちるものの歯石が付きやすい奥の臼歯への効果が薄いという。
「ガーゼを指に巻き、後ろから臼歯の横をこすると、歯垢が落ちます。子犬のころから続けていれば、8歳くらいまでは歯周病予防に効果的です」(湯本院長)
異物に慣らす療法も
病因の見極めがつけにくく、ヒトのそれと同様、対処が非常に難しいアレルギー性皮膚炎も増えている。
大阪府箕面市のふじむら動物病院には、アレルギー性皮膚炎にかかった飼い犬を連れた愛犬家が訪れる。院長を務める藤村正人獣医師は、アメリカ・コロラド大学でイヌのアレルギー性皮膚炎治療の研修を受けた後、01年に開院した。
同動物病院に来院するイヌの3割程度が、アレルギー性皮膚炎の治療目的。すでに複数の動物病院で治療を受けた後に、遠くからやってくるイヌも少なくないという。
なぜイヌが、アレルギー性皮膚炎になるのか。藤村院長は、こう話す。
「寄生虫や感染症が減ったことで、免疫が過剰反応しているのではないかと思います。その点の仕組みは、ほぼヒトと同じです。風通しが悪い家の中で飼育されている環境も影響していると思います」
イヌのアレルギー性皮膚炎には、餌の食物に原因があるタイプと、ダニの死骸や花粉などが元で起こる二つのタイプがある。どちらのタイプも、耳や、足の指の間、腹などに症状が表れる。イヌが夜中に体を激しくかく動作などで、異常に気づくことが多いという。
耳には、特にアレルギー性皮膚炎が表れやすいという。藤村院長が、01年4月~05年4月の約4年間でアレルギー性皮膚炎と診断したイヌ120頭のうち、6割にあたる72頭に、耳が赤くなり、かゆみが出るなどの耳炎の症状が出ていた。
「ダニ以外の病因で、アレルギー性と思われる耳炎のイヌには、抗ヒスタミン薬やステロイド剤でかゆみを抑え、抗生剤などで細菌を取り除く治療が一般的。さらに、アレルギーの原因が特定の食物である診断がつけば、治療用の低アレルゲン食があります。エサを替えると6割程度は治まります」(藤村院長)
改善が思わしくない場合、減感作療法が行われるケースもある。減感作療法とは、アレルギーの元となっている異物(アレルゲン)を少しずつ体内に入れて、免疫が過剰に反応しないようにすることを狙った特殊な治療だ。東大動物医療センターなど大学付属の動物病院で実施されている。
「減感作療法は1か月の入院も含めて、治療期間は1年程度になります。そこまでしても、期待された効果が出なかったり、途中でやめたりするケースもあって、3頭に1頭程度はうまくいきません。飼い主には、そうしたマイナス情報も含めて説明しています」(藤村院長)
健康法もヒトと同じ
1年半前に来院したラブラドールレトリバー(オス、5歳)は、ダニと豚肉が原因のアレルギー性皮膚炎から耳などのかゆみで寝られず、ぐったりとしていた。藤村院長が話す。
「1か月入院し、その間、2日に1回、アレルゲンを注射しました。それによって、退院時には、50%程度症状が改善しました。その後は、外来で1か月に1度の注射です。今はアレルギー症状は少し残る程度になっています」
ヒトのアレルギー性皮膚炎は、成長するに従い、症状が軽くなることが多いが、イヌの場合、軽くなる傾向はあまり見られない。長命化を考えると、対処は早めにしたほうがよさそうだ。
一般的に病気を防ぐポイントは、やはりヒトと同様に、規則正しい生活と食生活、適度な運動ということになる。
前出の湯本院長が、こう話す。
「決まった時間に起きて、散歩。肥満が増えているのもヒトと同じ傾向です。ですから、餌を適量に保つことも大切です」
ダイエットに取り組むイヌもいるが、湯本院長によると、見るべきポイントは体重よりも体形だという。種によってもちろん差はあるが、見た目でバランスがいいかどうかが、一つの判断材料となる。大切なのは、ヒト同様、快食、快便、快眠なのだという。
(読売ウイークリー2007年8月12日号より)
犬も人間と同じなんですね!!
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練馬区・杉並区の歯医者さん「さきやま歯科クリニック」 院長 崎山 悠介